1983年11月のある日、いつものようにニューアルバム発売のお知らせの葉書が届いた。
アルバムタイトルは『JEWELS』。
この『JEWELS』が『Canary』へとタイトル変更され発売されることになるわけだが、発売当時は、“あぁ、タイトル変わったんだ”くらいにしか思わなかった。
しかしそんな単純な僕とは違い、タイトル変更の裏に隠された様々な事情を考察していた人達もいたようで、現在ネット上ではなかなか興味深い意見を読むことができる。『JEWELS』のタイトル曲になる予定だった曲が「WITH YOU」になったのでは?、という意見には、思わずハッとしましたね。
『JEWELS』と『Canary』の関係は、まるでビートルズの幻となったアルバム『Get Back』と『Let It Be』の関係みたいで、答えのない妄想が渦巻いてゆく。
「WITH YOU」のクリスタルシングルは、ファンならば押さえておきたい一枚。
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1983年の12月は、前年同様に日本武道館でコンサート。「Seikoland」開催。
このコンサートの時は当時付き合いのあった後輩が、“ちょっとしたコネがあるので僕がチケットとりますよ”というから彼に任せてみた。そのチケットがこれ。
席番を見てピンとくる人もいるかと思うけど、この辺はいわゆる「関係者席」に割り当てられることが多いエリアですね。
入場して自分の席の周りを確認。僕の左の2席はまだ空席のままだった。さらにその左には、音楽評論家の福田一郎さんが座っていらした。果たして僕の横には誰が来るのだろう?と思っていたら、なんとそこに現れたのは、松本隆さんだったのだ!しかも松本さんを席まで案内してきたのは、CBSソニーの若松さんだった。レジェンドのお二人を目の前にして凍りつく僕。若松さんはすぐにその場を離れたが、松本さんは僕の左の席に座った。
“松本隆と連番で松田聖子のコンサートを観る”(敬称略)というありえない状況に混乱しつつも、なんとか冷静に最後までコンサートを観た。
失礼があってはいけないので話しかけたりはせずに大人しくしてたんだけど、終演後、後輩が握手してもらってたので便乗して僕も握手してもらった。
それから16年後の1999年11月、松本さんの作詞活動30周年記念ライブ後の打ち上げパーティーで松本さんとお話しできる機会があったので、“聖子さんのコンサートで隣の席だったことがある”ということを話したら、“へー”と仰られてました。
あとは、発売されたばかりの「哀しみのボート」の制作過程のこととか、作曲を担当した大久保薫さんの印象などについて訊いた覚えがある。
その後に松本さんが煙草を吸おうと口に咥えたので、これはチャンスとばかりに僕が火をつけた。
“煙草の匂いのシャツにそっと寄りそうから”と書いた本人の煙草に火をつけたのは、一生の思い出だ。
パーティー会場となったお店
このパーティーの様子は、はっぴいえんどを黎明期から撮っているカメラマンの野上眞宏さんが撮影していらして、後日松本さんの公式サイトに期間限定で掲載された。その中には僕と松本さんが会話してる写真なんかもあったりして、嬉しいやら恥ずかしいやら。
帰りの際、パーティー参加者にはお土産のマグカップが配られたが、これを一人一人に手渡していたのは、なんと松本さんの御令嬢だった。
マグカップ
マグカップの裏には「風街茶房」の文字
マグカップが入っていた紙袋にも「風街茶房」の文字
パーティーのインビテーションカード(パーティーは二日続けて行われたが一日目と二日目ではカードの色が違う)
パーティー会場の外で書いて貰った、松本さん、細野晴臣さん、鈴木茂さんのサイン。
パーティー会場内はサイン禁止だったんだけど、帰りにお店を出たところで無駄話しをしてたら、ちょうど細野さんと茂さんが出てこられたので、運良く書いてもらえた。
ということは、ここで待ってれば他のパーティー出席者のサインも貰えるかも?と思ってたら、なんと松本さんが出てこられたので、“3/4はっぴいえんど”のサイン獲得。真ん中の“はっぴいえんど”の文字と日付は松本さんの字です。
その後、同じくパーティーに出席者していた太田裕美さんのサインも欲しくてしばらく待ってたんだけど、深夜零時過ぎてたし寒かったので諦めて帰宅。
その翌月に行われた松本さんのトークイベントのチラシ。
イベント参加者には松本さん御本人からサイン色紙が手渡された(握手付き)。
サイン色紙を手渡す松本さんをこっそり撮ったがブレブレ
握手する時、“あれっ?君、先月も会ったよね?あの後どうしたの?”と言われてオロオロしてしまいました。
松本さんのトークイベントの翌日には、これは運命なのか、太田裕美さんのイベントが!
無事に太田さんのサインも頂けてめでたしめでたし。
サインを手渡す太田さんをこっそり撮ったがブレブレ
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話を「Seikoland」に戻すが、このコンサートの模様は翌年の元日にテレビ放送され、さらにビデオソフトでも発売されたので、目にした人も多いと思う。
最初にテレビ版を見たとき、“この場面はこのままでは商品化されないだろうな”と思ったら、案の定、ビデオ版では別映像に差し替えられてましたね。テレビで放送される前に、聖子サイドでの映像チェックはなかったのかな?さすがにアレはちょっとねぇ・・・。
ビデオ版が発売された当時、テレビ版と比較をして、どの曲のどの部分が違う映像か徹底的にチェックしたんだけど、30年以上前の話なので詳細は忘れてしまった。今から再検証する気力はもうないです。
どなたかマニアの方、「Seikoland」の映像検証してみませんか?
1983.12.27 18:00 日本武道館 TOTAL TIME 1時間50分
セットリスト
MC1
03:青い珊瑚礁
04:裸足の季節
05:小麦色のマーメイド
06:マドラスチェックの恋人
07:セイシェルの夕陽
08:夏の扉
09:野ばらのエチュード
MC2
10:Canary
11:赤いスイートピー
12:風は秋色
13:蒼いフォトグラフ(Instrumental)メインステージのバンドメンバー紹介
14:クリスマスメドレー(赤鼻のトナカイ、サンタが街にやってくる、恋人がサンタクロース)
MC3 サブステージのバンドメンバー紹介
15:Rock'n Roll Good-bye
16:チェリーブラッサム
17:ロックンロール・デイドリーム
18:星のファンタジー
19:真冬の恋人たち
20:BITTER SWEET LOLLIPOPS
21:瞳はダイアモンド
MC4
22:Only My Love
アンコール
23:天国のキッス
24:SWEET MEMORIES
発売されたビデオの収録時間と実際の公演時間とでは約25分の差があるが、ビデオに収録されなかったのは、
- 「野ばらのエチュード」の後のMC
- 「蒼いフォトグラフ」(Instrumental)に乗せたメインステージのバンドメンバー紹介からクリスマスメドレー、サブステージのバンドメンバー紹介を含むMCまでがバッサリカット
- 「星のファンタジー」のイントロに乗せた朗読部分
- 「Only My Love」前のMC
以上の4点。
「野ばらのエチュード」の後のMCは、何か機材トラブルでもあって、MCを伸ばして時間稼ぎしてくれ、と指示でもあったのか?と勘ぐってしまうくらいの唐突なエピソードトークが続き、当時としては異例の10分に及ぶ長尺のMCだった。このMC内でテレビ視聴者に向けて語りかけている部分のみテレビ版に収録されたが、なぜかここだけ昼公演からの映像だった。
テレビ放送があった日の前日の大晦日にはラジオでもコンサートの模様が放送されたのだが(聖子さんのコメント付き)、こちらはテレビ版、ビデオ版の音声とは別MIXになっていて、ビデオ版などでは聴こえない音が聴こえてくるという、マニア泣かせの内容。大村雅朗さんの“可愛いね 君”も、ビデオ版などよりクッキリ聴こえる。
テレビ版、ラジオ版、ビデオ版、全て夜公演からの収録です。