松浦亜 First Kiss


まさか、ここまでやってくれるとは、思いませんでした。

モーニング娘。以外はことごとくコケてるつんく♂氏にとって、“モー娘。だけじゃないぞ!”ということを知らしめる意味でも、松浦亜弥の存在は重要なものとなってきました。シングルデビューから約8ヶ月後に、ファーストアルバムをリリース、というタイミング。彼女ほどの人気と実力があれば、もっと早くに出すことは十分に可能だったと思うけど、いかんせん全曲の作詞、作曲が、超多忙のつんく♂なので、この時期になったのかもしれません。全11曲中、既発シングルの4曲を除く、7曲が書き下ろし。シングルのカップリング曲は、1曲も含まれてません。このカップリング曲4曲を入れれば書き下ろしの手間が多少省けて、もうちょっと早くリリースできたワケだが、そこはやっぱ意地でしょう、つんく♂さん。そして届けられたこのアルバムは、待った甲斐のある完璧な内容でした。“ガールアイドルシンガーのファーストアルバムは、こうあるべき”という、曖昧な定義があるとするならば、もうまったくハズしてないですね。スキ無し。全てにおいて確信犯的な作り。

では簡単に、一曲づつの感想を。


M1.ドッキドキ!LOVEメール
1st.シングル。アルバムが出るばらば、1曲目はこれしかないだろう、と、発売前からほとんどの人が予想してたと思う。もうこれは、どうにもヒネリようがないですね。これ以外考えられない。この曲については発売当時にもいろいろ書いたけど、“アルバムのオープニングナンバー”として見ても、申し分無い完璧な曲。2001年にボクが聴いた全ての音楽の中でも、ナンバーワンです。詞、曲、アレンジ、ボーカル、演奏、ミキシング、全てパーフェクト。

M2.トロピカ~ル恋して~る
2nd.シングル。この曲がリリースされた時、彼女の衣装とカラ元気なダンスを見てすっかり引いてしまったボクは、CDを買いませんでした。発売記念イベントにまで足を運んだにもかかわらず。しかし、こうして音のみに集中してみるとアラ不思議。現在では、「ドッキドキ!LOVEメール」と肩を並べるくらい好きだなぁ、これ。サウンド的には前作同様、打ち込みのリズム隊+生のストリングス、と、踏襲したかたちになっている、と思いきや、こちらのストリングスはサンプリングによるものですね。ちなみに、アレンジャーも替ってます(こちらは渡辺チェル氏)。エンディングでのキメのプレーズで、目玉を上下左右に動かしながら聴くのが、正しい聴きかたでしょう。あざとさの極致のような曲。スバラシイ。

M3.オシャレ!
ド派手な曲が終った後、この曲のイントロのハモンドオルガン(弾いてるのは中西康晴さん)が耳に入ってくると、もうそれだけでヤラレタって感じです。ニクすぎますね、この曲順。2コーラス目が終った後のエレピソロ(これも中西さん)に乗ってフェイクする感じとか、ボーカルのエフェクト具合が、椎名林檎を彷彿とさせるものがあります。その直後のブレイク時に、左チャンネルのアコギのレベルが上がるとこなんて、モロでしょ?

M4.100回のKISS
4th.シングル。ニットの帽子をかぶりつつもヘソを出してる、暖かいんだか寒いんだかわかんない装いで歌う、初のミディアムテンポナンバー。もうなんでも来いですよ、彼女。切なさを見事に表現した、このボーカルを聴いてください。

M5.絶対解ける問題 X=ハート
きっとライブでは、この曲でダイブするヤツとかいるんだろうなぁ。全体的に亀田誠治モノっぽい音ですが。亀田と言えば椎名林檎。で、この曲でそれ風なところは、1コーラス目が終ったところでのスイッチング奏法(「罪と罰」にでてくるアレです)ですかね。それよりも一番の聴きどころは、そうる透のドラムに尽きますね。彼なくしてこの曲は成立しなかった、といってもいいくらい。この曲に限って、ドラムのマイクの立て方が、他の曲とは明らかに違うのがわかると思うけど、この一発録りのスタジオライブ的なノリ(実際は違うけど)が、スピード感を際立たせてますね。さぁ、ライブではどう再現するのでしょう?

M6.笑顔に涙~THANK YOU! DEAR MY FRIENDS~
モーニング娘。真夏の光線」で、ボクのようなバックトラックチェッカーを狂喜させた、河野伸さん(ex.スパンクハッピー)のアレンジ。「真夏の光線」でも見事だった、ブラス+ストリングスが、この曲でも素晴らしい効果をだしています。ちなみに、ブラスのみ生で、ストリングスはサンプリング音源を使用してると思われます。河野さんがアレンジした曲は、このアルバムではこれだけなのが残念。

M7.LOVE涙色
3rd.シングル。モーニング娘。第5期メンバーの、オーディション合宿における課題曲でもあったこの曲、ほんとに音の採りずらいメロディーだね。最初これ聴いた時、つんく♂氏は、松浦亜弥のことイジメてるのかと思ったくらいです。しかし、見事に歌いきりましたね、彼女。どれだけ天性のカンが鋭い子か、これでハッキリしました。結果的に、2001年の彼女にとっての代表曲ともなり、初出場だった「NHK紅白歌合戦」でも、この曲を引っ下げてトップバッターとしての任務を果しました。クレジットを見るまで気が付かなかったけど、この曲のドラム、打ち込みなんだね。てっきり人間が叩いてるもんだと思ってました。

M8.そう言えば
こんなところにも、「アイムザウォラス」が、とか最初は思ったけど、純粋にオアシスでしょうね。サビ前のギターのフレーズとか、ストリングスのミキシング具合とか、近い雰囲気があります。この曲をライブで歌う時は、スタンドマイクで手を後ろに組んで、右足に体重をかけて歌うと、一部の人間が喜びますよ。

M9.S君
ジャネット・ジャクソンの「Doesn't Really Mattere」という曲は、宇多田ヒカルの「Can You Keep A Secret?」という名曲を産み出しました。そして、つんく♂氏による「Doesn't ~」の解釈がこの曲だと、ボクは認識しています。

M10.私のすごい方法
この“♪ドッドッ、ッドッドッ”というベースパターン(弾いてるのは沖山優司:ジューシー~ビブラ、その他)を聴くと、小沢健二の「天使たちのシーン」を思い出してしまう、ボキャブラリーの乏しいオレ。しかし偶然にも、この2曲はどちらも中西康晴さんがピアノを弾いているのであった。これは必然ですね。そんなことよりも、“♪たった10年そこそこの人生、浮かれてる暇もないけど”というフレーズ、このアルバムの中で、一番グサッときました。なんだか、15歳の子に説教されたような気分だよ。

M11.初めて唇を重ねた夜
壮大なストリングスで始るラストナンバー。左チャンネルに遠慮がちに入ってるエレクトリックシタールが、もうちょっと派手にでてくると、フィラデルフィアソウルのバッタもんぽくなって、良かったかもね。ところで、このE.シタールを弾いてるのが、ダンス☆マンのバックで女子高生のコスプレして暴れてるギタリスト、JUMP MANだと知って、曲のイメージが急変。クレジットを見ないほうが幸せだった、ということも、たまにはあります。


松浦亜弥はアルバム全曲でコーラスもやっているのだが、これが実に見事。彼女のボーカルは、ほんとに天性のものだと思う。鍛えて得たものじゃない、選ばれた人のみが、生まれ持ったもの、というかさ。

デビュー一年目の15歳が、アイドルの仮面被って、つんく♂とタッグでスゴイ仕事をしました。偏見まみれで音楽聴いてる人には、一生聴いて欲しくないアルバムだね。ざまあ見ろ、って感じ。オレ達には、こんな極上アルバムを楽しめる耳があるんだぜ!

つんく、高橋論一、渡部チェル小西貴雄、hasie&koji、河野伸鈴木俊介村山達哉、そして松浦亜弥に感謝します(敬称略)。